#100

 

もし心に実体があって、しかもそれを身体の中のどこかに(やはりこの場合心臓付近が最適な場所になるのだろうか)格納、と同時に好きなタイミングで体外に露出する事が出来るのなら。

『紙やすりをあててガシガシとこすってしまいたい』

志乃は今まさにそんな気分だった。想像上の心のカタチはその時によって様々だ。今日の心は珪藻土から作られた吸水マットの形状をしていた。

『脱衣所のマットの吸水がイマイチなのもきっとやすりがけをしてないからだな。それと同じように珪藻土ハート(志乃命名)もやすりがけをしたらツルツルになるし再び水分をしっかり取り込んでくれるに違いない』

志乃はこの数日後に某家具メーカーで購入した珪藻土マットに重大な欠陥が見つかった事をネットニュースで知る事になる。が、いまは想像上のマットの手入れの事で頭がいっぱいだ。

『でも、そもそもが今回の心のカタチの設定間違えたかも。いまのわたしのガサガサした感情は水を吸わなくなった珪藻土マットというよりは紙やすりそのものじゃないか。それもかなり目の粗いやつ』

 

あの頃とは何もかもが違う生活を送っている。34歳になった志乃。毎日が穏やかで、平和で、温かい日々。

なのにどうして今日の彼女はこんなにも心がささくれ立っているのだろう。 

これは時折顔を出す彼女の闇と狂気を綴る話。